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「第7回中小企業のまち民間サミット」報告
「吹田市産業振興条例」制定前後の産業施策の展開
2009年11月28日  吹田民主商工会事務局長   西尾 栄一
●はじめに
大阪府吹田市は35万の人口、1万数百の事業所がある複合都市です。大阪万博の開催地であり、1971年から1999年まで28年間、革新・民主の市政運営が行われました。「福祉のまち吹田」は革新民主の市政が市民と共に築いてきたものです。現市政になって10年間、吹田民商は多くの部分で現市政と対立していますが、ここ2年間の産業施策の展開は評価しています。なぜなら、私たちが、求めてきた施策内容と多くの部分と重なっているからです。吹田市産業振興条例の制定を軸とした施策展開と今後の課題について報告します。

Ⅰ 吹田市産業施策展開の転換点
2007年11月12日、「産業労働室」が「吹田市産業労働にぎわい部」に昇格しました。吹田民商は、産業施策を吹田市行政の上位に位置づけること、具体的には「室」から「部の」の昇格、予算の増額と職員の増員を要求してきた経過からして、この措置を大いに歓迎しました。初代部長は、直後の11月15日に吹田民商が口頭で行った3つの要望(① 人事を安定して欲しい②若手職員を施策の討議に参加させて欲しい③条例の審議は急がず時間をかけて行って欲しい)を丁寧に聞き取り、すぐに具体化していただきました。2008年2月の定例懇談会では、①条例の制定、②就労支援JOBカフェ吹田の開設、③JR吹田駅周辺まちづくり協議会の設置等3点を施策の重点として取り組むとの所信表明がありました。そして、この3点は、見事に実行に移され、現在稼動しています。特にJOBカフェ吹田の成功のために、市長や部長、職員の皆さんが事業所訪問を旺盛に展開されたことは大変大きく評価されるものです。

Ⅱ 吹田市産業振興条例制定議論の積極面と条例の内容
(1)吹田市産業振興条例(以下「条例」)の議論は2007年8月から「吹田市商工業振興対策協議会」(以後、「協議会」)の中で大変民主的に行われました。行政の考えのみを押し付けるのではなく、参加する委員が出す意見を公平に取り上げて時間をかけて討議されました。
 行政が2007年9月末段階で発表した条例案は、あっても、なくてもよいものでした。私たちは、「こんな条例であればいらない」と言ったほどです。そのため、「協議会」に、「吹田市商工振興条例(案)に対する意見」(2007年10月22日)を発表して、当局案の問題点を全面的に明らかにするとともに、先進的な自治体の条例を冊子にして資料として提供しました。その翌月には「吹田市中小企業振興基本条例(仮称)に向けた提言」(2007年11月15日)の文書を発表して、条例の必要性や、どのような条例が期待されているのかを明らかにしました。(資料参照)この文書と実際に制定された条例を読み比べてみていただければわかりますが、私たちが、この時期に提案した事項の多くが条例として採用されています。「協議会」会長と担当職員が発揮された調整力は素晴らしかったと思います。2008年6月からは中小企業家同友会の役員も公募委員の形で、この「協議会」に参加され、討議に厚みが加わりました。
(2)「条例」の内容も積極的な面が数多くあります。①産業の振興は中小企業の発展を基に推進される(3条)こと、小規模企業者の経営の状況に応じた支援(4条)が明確にされていること、大企業、大型店(6条)の役割が明記されていること等、実質的に「中小企業振興基本条例」になっています。当初の「協議会」の議論は、「中小企業の振興」を主張する私たちは少数派でしたから、よくここまで来たと思います。②「地域密着型商業」「都市型工業」を推進し、「農業」と「観光」を産業として位置づけました。(4条)私たちは、吹田で「農業」と「観光」が「産業」として発展するのか静かに注目しています。③産業振興を推進させる主体が「市」(3条)であることを明確にし、「必要な調査」や「財政措置」(5条)を明記しています。この部分も簡単に入ったわけではありません。④最も議論の対象となった「企業誘致」の条項は大企業の誘致ではないことを討議で確認し、誘致する場合は「地域経済の循環および活性化に資する」(4条)との条件をつけました。つまり、人、モノ、お金が循環することが重要だとしたのです。⑤ 商店会の皆さんがご苦労されている「加入」と「応分の負担」を明記しています。コンビニ等もこの対象に入ることを明記した点で全国的にも珍しい条例です。(6条)私たちは、商店会の皆さんが現場で「新たな対立」を生まないように推進していただくことを願っています。⑦ 経済団体等(7条)、市民の役割(8条)を明記しています。⑧ 必要な「会議の開催」と「実施状況の公表する」(9条)等が「条例」の内容です。

Ⅲ「条例」制定後の施策展開
「条例」制定後に進められている施策展開の第1は「協議会」の下に3つの部会(①事業所実態調査作業部会②企業誘致・創業支援作業部会③商業の活性化に関する要領・要項制定作業部会)を設置して、条例を具体化する施策の討議が住民参加で行われていることです。民商からも3名ずつ9名の役員が参加しています。
第2は、「部」の推進体制が変更され、商業、起業・工業、農業、観光の部署と労働の部署に職員の配置換えが行われたことです。特に「工業」の部門が設置されたことは大きな前進といえます。
第3は、この「起業・工業」部門が「ビジネスコーデネーター事業」を開始したことです。市内製造業約500事業所を一軒一軒訪問して実態把握に努めています。これは国の臨時交付金を活用して行っている事業です。
第4は、各種実態調査(事業所実態調査、商業分野は吹田駅周辺商店街の「後継者」調査、買い物調査、労働分野は「ニート・引きこもり」雇用・労働調査、農業分野は「地産地消」調査)が行われることです。部長を中心とした職員の皆さんのやる気を感じる内容です。
第5は施策の見直し作業を始めていることです。少ない予算のなかで、どのように施策の特徴を出すのか検討されています。

Ⅳ 今後の施策展開を展望した課題
 今後の施策展開を行っていくうえで留意するべき課題を以下にまとめました。第1は、兎に角、「部」の施策と運営が軌道に乗るまで幹部職員や今の部署を希望する職員の異動を行わないことです。
 第2は様々な実態調査の結果と分析内容を公表し、中小企業者や住民の議論を高め、住民と共に施策をつくる姿勢を貫くことです。「条例」討議で行った民主的な議論をひと回り広げることです。この取り組みが中小業者を育て、職員や住民を育てることにつながると確信します。
 第3は、行政全般における「産業労働にぎわい部」の位置づけを高めることです。「部」ができ、「条例」ができましたが、まだまだ、発言力の発揮はこれからでしょう。予算を大幅に増やし、職員数を大幅に増員することも含め、「条例」が浸透するよう手立てを尽くして欲しいと思います。
 第4は施策展開を推進する体制を強化することです。「条例」第5条は「市は、基本理念に基づき、必要な調査を行い、産業施策を総合的かつ計画的に推進する」と記しています。また、「新ビジョン」は、「具体的な施策の展開にあたっては、都市計画、交通、環境。福祉など市民生活にかかわる行政の各部局や関係機関が連携と充実を図る」こと、「まちづくりの視点から政策の具体化・重点化を進めていく」ことが必要だとも指摘しています。大東市の産業施策は2000年から具体的に展開されているそうですが、展開を始める時点で「考えるのは企画(担当)課、動くのは産業(担当)課」という多くの自治体が陥りやすい問題を正面から議論したそうです。全庁的な体制が整備されない限り、年間予算が5億円強では産業の実態に相応しい施策展開は期待できません。特に、官公需に対する発言権を確保する必要があります。
 第5は、施策の目的と体系化、系統性を追求することです。産業施策を積極的に推進している自治体は①先進自治体の良いところを学び、②施策を積み上げ③その経過を担当職員が自覚して仕事をしていることに特徴があります。吹田市もその姿勢を学んで欲しいと思います。
 第6は、長期的な視点で人材と組織を育成していく計画をもつことです。職員を今まで以上にどんどん先進自治体の視察に送り出すこと、現場に足を運ばせること、勉強する環境を与えることです。中小企業者や経済団体は、施策の議論に参加したり交流の場や経営塾などを持ったりする中で、自分や自分の組織を客観的にみる目を培っていくことができます。「場」を提供することです。学校教育や社会教育との連携も重要です。
 第7は、緊急対策として「仕事起し」を早期に実行することです。この「部分」は「部」の範囲に入りません。そのため、指摘のみにします。

●おわりに
 先進自治体の状況を勉強して感じるのは、目的や系統性、継続性があり、積み重ねの到達点を職員が自覚しながら、そして、中小企業者が「主体者」になるように「行政」が育てようとしているところに特徴があるように思います。吹田市も時間をかけて「先進」に学びながら施策展開してほしいと考えています。


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